漆器のお直し品が仕上がってくるたびに
漆器職人の技術に感動し、
感謝の気持ちでいっぱいになる私ですが、
とりわけ、お椀など身近に使うような漆器モノを手にすると、
漆塗りのお椀の良さをもっと多くの人に知ってもらいたい
という想いが、どんどんどんどん増してきました。
そうして思い立ったのが、
修理をお願いしている職人に
毎日の食卓に欠かせないお味噌汁椀を
作ってもらおうということでした。
私は、日ごろから木製の汁椀を
木の温もりや漆の良さを実感しながら
使っていて、愛着もひとしお
職人の手によって
どんな風に作られたかわかっているので、
大切に大切に
私と同じように、木の漆のお椀に興味がある人は
少なからずいらっしゃるだろうと。
そんな方たちに使ってほしいなぁ~
という想いで作った味噌汁椀が、
一年かけてようやく仕上がってきました。
丸太の状態から完成まで
木の漆塗りのお椀は、いったいどんな風に作られるのか?
職人の仕事の邪魔になるのを承知で
丸太の状態から白木地挽き、下地工程など
様々な作業工程を見学させてほしいとお願いしました。
面倒なことにもかかわらず、
職人たちは快く承諾してくれました。
荒挽き
まずは、丸太の状態からスライスしてお椀の大きさくらいまでカットしていく作業。
お椀のおおまかな形を作る工程が「荒挽き」です。
※石川県山中の白鷺木工さんで取材させていただきました。
![材木を切る](https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/none/path/s1340f0d65134ae58/image/ibfaa4e5b933704a4/version/1506557160/image.jpg)
![お椀の大きさに合わせて、木を縦にカットする](https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/none/path/s1340f0d65134ae58/image/i98cfc20549566cf9/version/1506559244/image.jpg)
![おおまかなお椀の形状に近づける](https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/none/path/s1340f0d65134ae58/image/if2e845e2f8694678/version/1506559314/image.jpg)
荒挽きの工程は、すべて機械を使い、
ある程度の量を早く正確にこなしていくことがわかりました。
ここまでの形状に仕上げることで、
以降の職人による作業がずいぶん楽になります。
白木地作り
おおまかな形状の荒挽きの木地が出来たら、
ここからは丸物師による白木地作りの工程です。
轆轤(ろくろ)を使って、お椀の形を作っていきます。
※越前漆器産地・河和田(かわだ)地区の丸物木地職人です。
腕の良い、根っからの職人さんで、
(顔や名前は出さないという条件で取材させてもらいました。)
丁寧に、丁寧に、説明してくださって、正直とても楽しかったです。
![外側を削る様子](https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/none/path/s1340f0d65134ae58/image/ie299d33ba8a51269/version/1506559849/image.jpg)
![高台の中を削る様子](https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/none/path/s1340f0d65134ae58/image/i9555c7e3ced5dce5/version/1506559885/image.jpg)
![お椀の内側を削る様子](https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/none/path/s1340f0d65134ae58/image/i4bc6618f8c017b1b/version/1506559915/image.jpg)
お椀の平らな部分や曲線の部分、高台の狭い部分など、
それぞれの場所に合った道具(鉋)を使って削っていくため
お椀一つ削っていくのに何種類も使い分けなくてはいけないんです。
ちなみに、鉋は職人自身が自分に合ったものを作るんですって!
轆轤(ろくろ)を使って、
同じ形状のお椀に、正確に早く仕上げていく様子は
見惚れるばかりで全く飽きませんでした。
![白木地完成! 美しい!](https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/none/path/s1340f0d65134ae58/image/icf5743ca45b4b200/version/1506560390/image.jpg)
![](https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/none/path/s1340f0d65134ae58/image/i417696b97dd5fc12/version/1506644772/image.jpg)
シンプルな形状で、重ねが効くデザイン
ミズメザクラを使いました
今回使った木の種類は、水目桜(ミズメザクラ)というものです。
名前に”サクラ”とついていますが、カバノキ科。
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【ミズメザクラの特長】
年輪による堅さ・柔らかさの差が少なく、木質は堅く重い。
堅くねばり強いので、高級吸物椀に適している。
※「創立110周年記念誌 越前漆器」より
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お椀を挽く木地として使われることが多いのですが、
昔から比べると、手に入りにくくなってきたそうです。
場合によっては、木材を注文してから半年近くかかるとか?!
他にお椀の木地として使われることが多いのが、
欅(けやき)や栃(とち)などが挙げられます。
塗りの工程 下地
白木地が完成したら、塗り師による漆塗りの工程へ進みます。
※塗りの工程は、越前漆器伝統工芸士・山田秀樹さんにお願いしました。
お椀の修理では、とてもお世話になっている方です。
まずは、木地固めという工程です。
生漆を白木地に吸い込むだけ吸い込ませることで、
木地をより堅く丈夫にします。
![木地固め](https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/none/path/s1340f0d65134ae58/image/i3bf3df8747907bcc/version/1506645964/image.jpg)
![](https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/none/path/s1340f0d65134ae58/image/i8126d56475d71483/version/1506647089/image.jpg)
↑写真の手前のお椀は、塗って間もないもので、
奥に並んでいる濃い色のお椀は、塗って30分ほど経っているもの
生漆は空気に触れると、乳白色から濃い茶色に変化していきます。
こうしてお椀全体に木地固めをして、
漆が乾いたら、ペーパーで研ぎます。
次は、補強のための布着せ(ぬのきせ)工程です。
(木地の弱い部分に寒冷紗(かんれいしゃ)という布を貼る作業)
![](https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/none/path/s1340f0d65134ae58/image/i5321531b0eda129f/version/1506661939/image.jpg)
丸太を縦に切って挽いた木地は、
内側の底にヒビが入りやすいため、
その部分に糊漆(のりうるし)で布を貼ります。
この後、地の粉を使った下地作業に移ります。
※地の粉というのは、珪藻土を蒸し焼きにして粉砕したもの
地の粉、生漆、砥の粉(砥石の粉末)を混ぜて練ったものを
木べらを使って塗っていくのですが、
見ていると、いとも簡単そう・・・
もちろん、私みたいな素人には到底できません(笑)
![お椀の下地](https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/none/path/s1340f0d65134ae58/image/i11605928347aca60/version/1506663568/image.jpg)
![お椀の下地](https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/none/path/s1340f0d65134ae58/image/i4cb4bfe0480191cf/version/1506663595/image.jpg)
場所に合わせた「へら」を使うため、へらも何種類か必要で、
お椀の角度に合わせたものや、大きいもの、小さいもの、
使い勝手が良いように自分でヘラを削って作るそうです。
![塗り師の道具](https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/none/path/s1340f0d65134ae58/image/i8ed2417da7db1707/version/1506736551/image.jpg)
地の粉には、荒いものから細かいものまであり、
最初は荒いものを混ぜて塗り、
次に、より細かいものを混ぜて塗ることで、
きめの細かいきれいな下地が出来上がるそうです。
![下地をしたお椀](https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/none/path/s1340f0d65134ae58/image/ic2db875798b87448/version/1506663757/image.jpg)
上の写真の向かって左が、ペーパーで研ぐ前、
向かって右が研いだ後のお椀です。
こうして、地の粉を使って下地の工程を何回か繰り返すことで、
より堅牢な漆器のお椀に仕上がるんですね。
中塗り、上塗り
下地を終えたら、次は中塗りの工程へ
![お椀の中塗り](https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/none/path/s1340f0d65134ae58/image/i768f986f5f062684/version/1506664028/image.jpg)
中塗りには、中塗り用の漆を使うんだとか。
今回、外側を朱にしたのは、朱のお椀と溜(ため)のお椀を作るためです。
朱のお椀は上塗りで朱の漆を塗り、華やかな印象のお椀に仕上げます。
溜のお椀は上塗りで朱合い漆(透き漆)を塗ることで、深みがかった色に仕上がります。
内側は、それぞれ黒と朱の上塗りを施します。
このように、上塗りの色を何色にするかによって、中塗りの色が決まります。
![お椀の中塗り、研ぎ](https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/none/path/s1340f0d65134ae58/image/ia8cd6e850b73dbce/version/1506664131/image.jpg)
全体を研いで、最後の上塗りの工程へ
![漆塗りの味噌汁椀 写真手前真ん中:溜内朱、右奥:溜内黒、左奥:総朱](https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/none/path/s1340f0d65134ae58/image/i81a5a6c2cb19a79a/version/1506664750/image.jpg)
ここからが漆の興味深いところ
漆塗りのお椀は、塗ってすぐ使うことはお勧めできません。
漆独特の臭いも残っていますが、
漆が、まだまだしっかり乾いていないからです。
漆は、ゆっくり乾き、より丈夫になっていくもので、
しっかり乾かないうちに熱い汁物を入れると、
変色の原因になり、また、傷もつきやすいからです。
今回作ったお椀は、今年(2017年)の8月初旬に仕上がりました。
来年(2018年)の年明け以降に使っていただくことをお勧めしています。
また、漆は経年変化で、より透明化していくので、
朱や溜の色も徐々に明るく変化します。
参考までに↓
![](https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/none/path/s1340f0d65134ae58/image/iaa9d9b2d1a75845d/version/1506737562/image.jpg)
味噌汁椀をお買い上げいただく場合は
ネットでお買い上げいただく場合は、ハレの日ショップのお買い物ページをご利用ください。
実は、数はそんなにたくさん作っておらず、
しかもすぐには使えないにもかかわらず、
さらに、価格もまだ決まってないうちに(?!)
すでにいくつかお買い上げいただきました。
ゆうパック、宅配便などで送る場合は、送料実費かかります。
質問などございましたら、お気軽にお問い合わせいただければ幸いです。
株式会社ヒロセ
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